(4)“今”を伝える

 新人研修のときに、「テレビには“今”がある。“今”を伝えられなければテレビじゃない」と、先輩のアナウンサーがいつもおっしゃっていました。アナウンサーは、“今”に敏感でなければ務まらないお仕事なのです。

 たとえバラエティ番組の司会であったとしても、それが生放送であれば、大きな事件や事故が起きた場合、番組のなかでトーンを変えて、そのことを伝えていかなければ、視聴者のニーズには応えられないのです。報道担当ではないから、なんて言い訳はできません。目の前で起きているどんなことにも対応できる話し手こそ、局の顔としてテレビに出ているアナウンサーなのです。

 では、“今”という抽象的なものは、どのようにしてつかめばいいのでしょうか? その1つの方法として、昔はよく「デパートに行け」と言われていたそうです。「デパートには“今”がある。流行りの洋服や、季節を先取りした商品が並ぶから、知識を入れてくるように」と言われていました。

 最近では自宅にいながらインターネットを使い、欲しい情報を何でも入手することができる社会になりましたが、すべてがまた聞きの情報ばかりでは、伝え手としての感性は鈍ってしまうと思います。

 新人の頃、関東ローカルの天気予報と季節の話題のコーナーを担当していました。季節の話題は、毎週月曜日から金曜日までの週5本分、自らネタを探していたので、都内のあちこちの公園や植物園をいつも歩き回っていました。真冬に香るマグノリアの微かな甘い香りも、初夏の緑のフレッシュな香りや風も、自ら経験しなければ伝えられません。

 また、季節ネタに困ったら、和菓子屋さんを覗けとも言われていました。お花が少ない季節は、季節の和菓子を紹介することも多かったのです。天気が悪い日が続く梅雨時は、花びらを寒天で作った和菓子のアジサイを紹介したりしました。冷たくて甘いさわやかな食感も、ネットからでは伝わってこないですね。
 
 伝え手であるアナウンサーは、“今”の新鮮な情報を伝えるために、自らの五感をつかって、情報を取りに行ってください。